Dez Pes - Live Report |
仮面の下には何がある?
僕の音楽活動は、ノルデスチの音楽をメインに据えている割には、実はあんまり、 ノルデスチ系のミュージシャンの生演奏を見たことがない。メストリ・アンブロージオも 今回が初体験だった。 メストリ−を簡単に紹介しておくと、彼らはブラジル北東部地方の中心地、 ペルナンブーコ州の内陸地域の音楽をルーツに活動しているバンドだ。ペルナンブーコ 州は、州都ヘシーフェを中心とする沿海地域があり、そこから西へ伸びていく内陸地域に があるのだが、州の特徴的なリズムであるマラカトゥは沿海部のものが、マラカトゥ・ ウルバーノ(Maracatu urbano)または、バッキ・ヴィラード(Baque virado)と呼ばれ、 内陸部のものはマラカトゥ・フラル(Maracatu rural)またはバッキ・ソルト(Baque solto)と言う。 マラカトゥというのは簡単に言えば王様ごっこをすることで、 仮装した人々が演奏したり演劇をしたりしてパフォーマンスするのだが、その演奏に使わ れるリズムは沿海部のものと内陸部のものでは全然別物である。特に沿海部のバッキ・ヴ ィラードは、アフリカの影響色濃く激しいシンコペーションを伴う特徴的なリズムで、 通常マラカトゥというとこのリズムを指していることが多い。逆にいえば、内陸部のバッ キ・ソルトというのはブラジルの商業音楽シーンでは、ほとんど取り上げられることが なかったのだが、メストリ・アンブロージオはまさにこのバッキ・ソルトなど内陸部の 音楽や演劇をフィーチャーしたパフォーマンスにより、成功したグループだと言える。 特に彼らは内陸地方に伝わるカヴァーロ・マリーニョ(Cavalo Marinho)という民衆劇に強い影響を受けており メストリ−のバンド名はその劇の登場人物に由来している。 さて、ブリュッセル公演だが、Botaniqueのオレンジ・ホールは比較的小さなハコで オールスタンディング。約200人ぐらいは集まったであろうか?客のほとんどはブラジ ル人と思しき人々。開演時間は8時のはずが、ブラジル流で30分遅れで開始。まあ、 当のブラジルでは2時間遅れなどもザラにあるからましな方だろう。
そして、バンドでの演奏が始まった。音やアレンジはほとんどCDで聴くのと変わらない。 しかし、バンド内での呼吸が合わないのか、最初の2、3曲は、曲の途中でテンポが揺れ、 CDよりも遅いテンポに収束してしまったので、大丈夫か?と思ってしまう。 初っ端からノリノリの展開を期待していたのだが、出鼻をくじかれてしまった感じだ。 それとは対照的にあっけらかんとしたボーカルを聞かせるのはパンデイロのセルジオ(Sergio Cassiano) で、元気一杯だ。元気過ぎて、バック・コーラスをするところが、声量がデカすぎて、 バランスが悪い。しかも少しピッチが甘いので、とにかくコーラスが汚く聞こえた。ちなみに 主にコーラスをしていたのは、シバとセルジオと声の異様に小さいベーシストのマジーニョ(Mazinho Lima)。彼はもう少し 声を出すべきだし、3人で集まってコーラスの練習をすべきだろう。 そんな微妙な雰囲気をモロに感じたので、僕はしばらくの間、かなり冷静にステージを 見ることになってしまった。エルデールとタロルのマウリシオ(Mauricio Alves)2人がフロントでアクロバットな踊りを 披露し、低音打楽器担当のエデール(Eder "o" Rocha)は、人間業とは思えないほどザブンバを 高速連打して、客席を一生懸命もりあげているのだが、それがどうも事務仕事のようにソツなく こなしているように見えてならない。すごい運動量であるのは分かっているのだが・・・ 要するに、バンドの演奏はきっちりまとまっているというわけではないが、各人の役割はクールにソツなくこなしていて、 ショーとして出来上がっている。しかし、熱い雰囲気というか勢いというものがあまり感じら れないのだ。ゆえに、こちらも盛り上がれない。でも、周りのブラジル人とベルギー人は そんなことはお構いなしに最初から盛り上がっているようだった。お前らもっと音楽にも 耳を傾けてよと言いたい。 もっともそういう連中に囲まれたからこそ味わえる楽しみもあった。途中シランダの リズムの曲では、「みんな簡単なダンスだから踊ってよ!」と一言メッセージがあるだけで 客席では、隣の人同志ですぐに手をつないで大小の輪を作って踊り出す。僕自身、シランダ のダンスに加わったのは初めての経験で、ああ、こんなものかと実感することができたのは 良かった。 そんなライブならでの楽しみの一つに、そのアーティストの新しい展開や成長を 見出すということがあるのだが、今回の場合は、それがなかなか見えてこなかった。 曲目は彼らの3枚のCDからのレパートリーが大半であり、前にも書いたが、バンドの演奏は 技術、テンションとも、ほとんどCDと変わることがない。彼らが最後のオリジナルアルバム を出して、もう数年が経つのだから、何か新しい傾向なりが見えてもいいはずなのだが・・・
自分たちの伝統音楽をとり入れて現代ブラジリアン・ポップスを作り上げるのは、代々 ブラジル人のお得意芸で、メストリもそうして成功したバンド一つだ。そのようなバンドは、 得てして、ネタが尽きてきて、真新しさに欠けてくるのものだが、今回のライブで感じた状況と いうのは、まさに来るべき状況が来ているということなのかもしれない。しかし、まだまだポシャる ような時期ではないはずだ。特に彼らの得意とするペルナンブーコ州内陸部の音楽は、まだまだ 他にも紹介される余地がある。今や、世界各国からお呼びのかかるインターナショナルなバンド に成長したのだから、今まで培ってきたものはそれとして、さらにバンドで出きる新しい展開 を追求し、それを熱くステージで披露してもらいたかった。CD以上のことが、ライブで体感で きないのであれば、そのライブにあまり意味はない。 と、厳しいことを書いてしまったが、ライブ終盤のコーコ大合戦は、もっともエキサイテ ィングな瞬間であり非常に良かった。コーコのリズムに心酔している僕にとって、これまた 生のコーコを初めて体感する機会であったし、本人達もアドリブを取り混ぜ遊び心たっぷりに 演奏し、観客とのコール&レスポンスと舌戦を本当に楽しんでいるようであった。Meu Peaoなど の古典をとり入れた選曲もバッチリ、ノリノリのコーコのオンパレードで会場はヒートアップ。 驚いたことに、観客は、アンコールのときに、拍手や「ポルケ・パロウ?(何で終わるの?)」 の常套手段でなく、最後の曲のコーラス部分を繰り返し歌いつづけて、アンコールを求めていた のだ。これが自然に観客の側から出てきていた反応だとすれば、それは非常に素晴らしいことだ。 それとも、メストリのライブでは、これがお約束で、それを知っている人が扇動していたのか? いずれにしてもそのホットな雰囲気は良いものだった。 しかし、それは彼らの得意とするペルナンブーコ内陸部の音楽でなく、沿海部のコーコで 勝ち取ったものであったのは、皮肉なことである。それともコーコが彼らの新しい傾向になるのか??? だとすると彼らの方向性が大きく変わっていることになるが・・・覗けるものなら、 彼らの仮面の下を覗いてみたい。 2003年4月23日 Q−TCHAN(文・イラスト) 関連リンク:Mestre Ambrosio公式サイト |
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